卒業に寄せて
- 公開日
- 2008/03/24
- 更新日
- 2008/03/24
校長室だより(txt)
卒業に寄せて −品のある人に−
(H.20.3.10)
世界はグローバル化の波を迎え、物や情報が瞬時に世界を駆けめぐるこの時代、「人としてどう生きるか」という難しい問に的確な答えは見つかっていません。が、こうありたいという私の思いはあります。それは「品のある人になること」です。私は最近よく品格とは何か、品のある人になるにはどうすればいいか考えます。「品」を広辞苑で調べてみると、「その人や物にそなわる(好ましい)様子、風格。くらい。人がら。」などとあります。十数年前、大江健三郎氏がノーベル文学賞を受賞したとき「あいまいな日本の私」と題した講演で、Decentな日本人に言及していました。Decentも辞典で調べると「①〈服装などが〉かなり立派な、見苦しくない②〈態度・考え・言葉・人などが〉上品な、慎み深い、礼儀正しい、徳の高い③相当な、まあまあの、恥ずかしくない」などと記されています。日本語の「上品な」にあたるdecentを大江さんが紹介したことが印象に残っています。
それでは、どうすれば、何を身につければ「品のある人」になれるのか。私は、たくさんある条件の中で3つを挙げたいと思います。
まず、バランスのよい豊かな教養を身につけること。孔子の論語に有名な「学びて思わざれば罔(くら)し 思いて学ばざれば殆(あやう)し」という教えがあります。「学ぶ」は本を読み、先生の話を聞いたりして勉強すること、「思う」は課題意識をもち自分で考えること、「罔し」は暗くてはっきりしない、「殆し」はあぶないの意味です。「本を読んだり、先生に教えてもらったりして学んでも、自分で考えなければだめだ、逆に自分で考えるだけで、学ばなければ独断になり危ない」という教えです。よく学び、よく考え、豊かな教養を身につけることが大切です。
次に、常に人に対する配慮ができること。聖路加(せいルカ)国際病院名誉院長で医師、97歳になられた日野原重明先生が、ハーバード大学エリオット学長が学生に話した言葉を引用して、「人に対して常に配慮できる人になれ」とよく言われます。長い年月を生き、未だ人々に希望を与え続けられている日野原先生が、いつも、相手の身になって考える習慣をつけてほしいとの思いからでしょう。ところで、私は、昨年十月に秋田県で開催された全国障害者スポーツ大会を見学し、全国各地の、障害を持ちながらも一生懸命にスポーツに取り組んでいる人たちとすばらしいふれあいをしました。国体が開催された年でもあり、施設のすばらしさもさることながら、ドアを開けるのにも、階段を上り下りするにも、相手をまず思いやる秋田の人々の行き届いた配慮に感心しました。さりげなく、そして笑顔とともに、人に配慮ができればどんなに素敵でしょう。
三つ目に、オープンマインドです。人は育ってきた環境や習慣、文化はみんな違います。自分の立場や考えなどを紹介しつつも、心を開いて相手を受け入れその違いを認め合うことです。自分と違うからといって相手の習慣や文化、価値観を排除するのではなく、共に認め合い共存する態度や姿勢が大切です。
これから、新しい世界に羽ばたく君たちには可能性が無限に広がっています。地球温暖化に象徴される環境問題や民族の対立、貧困と格差の問題など世界には困難と思われる問題がたくさんあります。しかし、豊かな教養があり、人への配慮を忘れず、心を開く「品のある人」なら、知恵を出し合いきっと解決してゆけると信じています。君たちの前途に幸多かれとお祈りし餞(はなむけ)とします。
卒業おめでとう。